東京銀器の技法

伝統工芸品 『東京銀器』 とは

東京銀器とは「東京都伝統工芸品産業振興協議会」の意見を聴いて知事が東京都伝統工芸品に指定し、また、国の伝統的工芸品産業振興に関する法律に基づき、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品のことで、地域団体商標の登録を受けている伝統工芸品の商標です。主要の産地にて『東京銀器』を製作したり、産地を形成する個々の職人さんや会社さんの集まりが「東京金銀器工業協同組合」として産地を形成しています。私どもの「有限会社日伸貴金属」も産地組合に所属をさせていただいております。また、平成30年現在の経済産業大臣が指定した全国各地の伝統的工芸品は230品目で、東京都伝統工芸品は41品目となっております。(一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会発行物・東京都産業労働局東京の伝統工芸品発行物参照)

東京銀器の歴史

優雅な光沢と落ち着いた深い趣で、多くの人を魅了し続けている銀器。ことに、ヨーロッパでは、古くから日常生活にとけ込み、食器として愛用されてきました。日本で銀器が使われ始めたのは、古く奈良時代まで遡ることができます。また、飛鳥時代の668年、当時の近江国に建立された祟福寺の塔心礎から出土した舎利容器の中箱が銀で作られていたことからもルーツが伺えます。この中箱は、打ち延ばした銀の薄板を折り曲げて箱とし、継ぎ目や蝶番を銀ろうで溶接して作られています。さらには、延喜式(916年)という律令の中に銀製の食器や酒器の名を見ることが出来ます。金の場合は、日本で比較的多く産出し、江戸末期まで重要な輸出品でしたが、銀は16世紀中ごろまで輸入されていました。

天文2年(1533年)石見銀山で新しい銀製錬法が開発されて以来、戦国大名によって日本各地の銀山が掘られ、産出量が増大しました。それまで銀鉱石は、朝鮮へ輸出し、製錬した銀を輸入していましたが、銀製錬に成功してようやく銀の国産化が実現したのです。長い間、特権階級の持ち物や神社仏閣の装飾金具などにしか使われなかった金銀製品が、江戸町人の経済力が高まり、町人文化が最盛期を迎える元禄時代に、広く一般的に普及し女性の髪飾りや男性の煙管などが作られるようになりました。徳川幕府は度々、奢侈(しゃし)禁止令を出してぜいたくを禁止しましたが、効果が無く、町人の間では広く金銀製品が使われていました。当時、幕府の御用金工師であった横谷宗珉が大名、武家相手の「家彫」から、町人相手の「町彫」を確立させると共に、彫金の技術技法を完成させ、刀剣装飾具が発達し、多くの彫金師が世に出ました。この頃の職人を描く「人倫訓蒙図彙」(じんりんきんもうずい)に彫金師の彫刻する器物の生地の作り手として、銀師(しろがねし)と呼ばれる銀器職人や、櫛、かんざし、神輿金具などを作る錺師(かざりし)が金工師として出現します。江戸でこれらの金工師が育った背景には、貨幣を作る金座、銀座の存在や多くの大名が集まる政治経済、文化の中心であったことが挙げられます。

明治9年、廃刀令が発せられ、装剣金工師はいっぺんに職を失いこれら金工師は花瓶や額類、装身具など新しい時代に合ったものを制作するようになりました。その後、富国強兵最優先の政策によって一時的に沈滞しますが、上流階級からは貴重品として歓迎され、高級品の分野での発展がみられました。第2次世界大戦後、アメリカ駐留軍による大量の需要があり、銀器業界は最盛期を迎えました。現在は経済産業大臣指定伝統的工芸品、東京の伝統工芸品、台東区の伝統工芸品として、時代にマッチした銀器を製作しています。

※(大都会に生まれた伝統工芸 いぶし銀の粋 東京銀器 旧東京美術銀器工業協同組合 発行物参照)

東京銀器の沿革

東京銀器の技法は、平田家を祖とするといわれており、初代平田禅之丞から九代平田宗道まで、その技法は継承されているが、特に五代目三之助、七代目重太郎は多くの門人送出し、東京金銀器工業協同組合の中にその弟子が多くおり、現在活躍している。

東京銀器の伝統的な技術又は技法

  • 形成は、次のいずれかによること。
    • 鍛金にあっては、地金を金槌及び金具を用いて手作業により成形すること。
    • 「ヘラ絞り」にあっては、地金を木型に当て、木型を回転させてヘラ棒を用いて手作業により絞り込むこと。
  • 部品の接合をする場合には、「銀鑞付け」、「錫付け」、「カシメ」又は「鋲止め」によること。
  • 加飾をする場合には、次のいずれかによること。
    • 「模様打ち」にあっては、手作業により金槌または鏨を用いて行うこと。
    • 彫金にあっては、手作業によること。
    • 切嵌にあっては、図柄の「切落とし」及び「紋金造り」は、糸のこまたは切鏨を用いて手作業によること。また紋金は、銀鑞付けをすること。
    • 鍍金にあっては、彫谷への「沈金鍍金」とすること。
  • 色仕上げをする場合には、「煮込み法」又は「金古美液」若しくは「タンパン古美液」を用いること。
  • 「ヘラ絞り」により成形したものにあっては、加飾をすること。

東京銀器の技法は、平田家を祖とするといわれており、初代平田禅之丞から九代平田宗道まで、その技法は継承されているが、特に五代目三之助、七代目重太郎は多くの門人送出し、東京金銀器工業協同組合の中にその弟子が多くおり、現在活躍している。

東京銀器の伝統的に使用された原材料

地金の素地は銀とし、銀の純度は、千分の九百二十五以上となります。
「東京銀器」という名称は、地域団体商標登録によってつけられ商標です。
公認組合として登記 昭和25年8月30日 旧組合名:東京美術工芸品工業協同組合
経済産業大臣指定 昭和54年1月12日
東京都知事指定 昭和57年12月24日
現組合名 東京金銀器工業協同組合
(設立50周年記念誌 東京金銀器工業協同組合発行物 参照)

日伸貴金属の東京銀器 制作工程

デザイン・造形加工

伝統工芸で用いられる専門用語として、金属に細工を施す美術工芸のことを「金工」といいます。また、金属を造形する際、一般的には大きき分けますと熔解した金属を型に注ぎ、機械的な力を加えずにそれが冷却することで特定の形状にする「鋳造」と、金属の塑性の性質を利用した「塑性加工」などの造形加工があります。「塑性加工」には・手絞り加工・ヘラ絞り加工・圧延加工・プレス加工・など様々な加工方法があります。製作をする金属の種類や数量、重量など予めお客様とお打ち合わせをしたオーダー内容を基に製作をいたします。

Q:鍛金(打物・手絞り加工)とは?

A:金属を叩いて板状に延ばし、器物を造る金工の伝統技法のことです。打物(うちもの)・鍛金(たんきん)とも言います。

Q:伝統的な加工方法とは?

A:金属板の伝統的な加工方法には、金鎚や木槌を使用する鎚鉸り加工や絞込み加工といった造形加工や、鏨を使用する彫金加工、また、糸鋸を使用して切り透かしたりする透かし彫り技法等があります。因みに、東京銀器の『鎚絞り加工』や『絞込み加工』また、彫金による『象嵌の技法』や『肉出し彫り』の技法や技術が確立された年代は1733年(享保18年)と記載されています。(伝統的工芸品 東京銀器 研修テキスト 平成22年度 東京金銀器工業協同組合発行物参照)

Q:鍛金と彫金とは違う?

A:違います。伝統工芸の金工では、松ヤニ、油、地の粉を調合したものを用い、たがねによって彫技を施すことを彫金といいます。おもに、加飾(かしょく)といって打ちたがねで表面に模様を打ち出したり、切りたがねで表面を彫ったりして「飾りを表面へ加える技法」のことを言います。

Q:どのような道具を使用する?

A:設備としては、焼鈍設備、ガスバーナー、あて台(けやき台)、あて金、定盤等を使用します。工具としては、金鎚、木槌、鏨などを使用します。

Q:ヘラ絞り加工とは?

A:型と金属板とを動力のヘラ絞り機にセットして回転させ、鉄のヘラ棒を用いて職人が匠の技により金属板をしごきながら型に密着させて成形する技法のことです。

  • 型をつくる
    • つくるものによって木型・樹脂型・鉄型と作り分けます。
  • 成形する
    • ヘラ棒を使用し、型に合わせて成形します。焼鈍と成形を繰り返します。
  • 仕上げ
    • 最終的に形状によって高さをつめたり内巻き・外巻き加工をします。

機械や手絞り加工だけでは、加工しきれない細かい調整を、職人が匠の技により加工します。

Q:どんなものがつくられている?

A:機械の大きさにもよりますが、大きいものはアメリカ航空宇宙局で打ち上げられているロケットの部品から新幹線の部品、美術工芸品など、色々なものがつくられています。

Q:ヘラ絞り加工とは?

A:型と金属板とを動力のヘラ絞り機にセットして回転させ、鉄のヘラ棒を用いて職人が匠の技により金属板をしごきながら型に密着させて成形する技法のことです。

Q:日本ではいつ頃からヘラ絞り機械が使用された?

A:西洋では百数十年前より行われており、最も古い塑性加工法の一つと言われています。日本では大正時代後期から、効率的に製造が出来るように動力機械が金工分野で普及したといわれています。鍛金分野ではヘラ絞り加工の導入で、材質や製品の形状にあわせ種々の加工技術を使い分ける時代になりました。

切削加工

切削加工とは、最終的な製品の形状に近づけていく工程です。具体的には、金属材を削り不要な部分を除去したり、指定重量や指定寸法へ最終的に近づけていくための重要な工程になります。切削加工には、鋸(のこ)・金切り鋏・きさげなどの道具を使用し、手作業にて切削する技法や旋盤・フライス盤・ドリル・グラインダー・切断機などの機械加工による切削方法など、製品の形状や種類、数量によって様々あります。また、伝統工芸(金工)で用いられる切削・研削加工としては、「挽物加工」(ひきものかこう)と呼ばれる金属切削加工専用のろくろ機に木型を入れ、金属をバイト(オランダbeite)と呼ばれる刃物で切削加工したり、砥石を使用して砥ぎ磨きをする加工するといった日本独自の切削加工方法があります。

Q:使用する木型の素材には、どんなものがある?

A:エゴの木・山桜・樫の木・椿など加工する器物によって色々と使い分けをしています。

Q:バイト(刃物)は何種類くらいある?

A:つくる物(形状)によって種類も使い分けるので、かなりたくさんの種類が必要となりますが、およそ50種類あります。

  • 木型をつくる
    • つくるものによって木型を作り分けます。
  • バイト(刃物)をつくる
    • 切削する形状にあわせてバイトをつくります。
  • 切削する
    • つくりたい品物を木型に入れてろくろ機にセットをし手作業にて切削します。
  • 砥ぎ磨き加工
    • 表面を滑らかにするために砥石等を使用し、砥ぎ磨き加工をします。

研削加工

研削加工とは、金属を研磨加工する工程です。具体的には、金属材の表面を軽く削り非常に滑らかな表面へ仕上げていくための大変重要な工程になります。研削加工には、やすり、砥石、ヘラ棒、グラインダー、バフ研磨機などを使用して研削する技法や、CNC制御機などの工作機械加工による高度な精密切削加工法など、製品の形状や種類、数量によって様々あります。

Q:やすりがけ加工とは?

A:やすりがけ加工とは、やすりを使い手作業にて研磨や切断を行う加工技法です。現在でも機械加工だけでは調整しきれない箇所をやすりで微妙な調整を行うことができ、それが技能の証明ともいわれております。

Q:バフ研磨加工とは?

A:布・麻製の円盤をバフ研磨機にセットして高速回転させ、手作業にて研磨する加工のことを言います。

Q:どんなときにバフ研磨をするのですか?

A:研磨する面に光沢が出るようにするため、手作業にてバフ研磨をします。特にメッキの下地研磨や金・銀・プラチナ・ホワイトゴールド等の表面研磨などで用いています。

Q:どんなものをバフ研磨するのですか?

A:一般的には車やバイク等のステンレス製マフラー・鉄製パイプ等がありますが、弊社では貴金属製の美術工芸品・純金の仏像の台座・ジュエリー・宝飾品といったものを材質や形状別にホイールの種類を変えながら加工しています。

  • 下磨きをする
    • 品物の材質別に合わせてバフホイールをセットし、手作業で研磨をします。
  • 研磨をする
    • 品物の大きさ別に合わせてバフホイールをセットし、手作業で研磨をします。
  • 完成品
    • 仕上げ布と呼ばれているホイールを使用し、鏡面仕上げにします。

彫金加工

「和彫り」、「洋彫り」。お好みの柄に合わせた技法を用い、オーダーメイドにて彫金加工することができます。個性豊かな紋章を彫金することで新たな魅力へと生まれ変わります。

仕上げ加工

一般的な金属加工の仕上げ方法には、金属の腐食を防ぎ、見た目を改善させる理由から、表面処理として電気鍍金加工が行われています。金、銀、ニッケル、クロムといった金属素材などの薄い膜を金属材表面に形成します。また、伝統工芸(金工)で用いられる仕上げ加工には、鏡面加工仕上げや艶消し(梨地)仕上げ、金古美仕上げ、小豆色に仕上げるタンパン古美仕上げなどがあります。素材の特徴を活かし、表面を仕上げることによって優雅で趣のある作風が表現されます。